【みんなみの里】地元のおばあちゃんから教えられた牛との暮らしと食文化 | グランドマザーズディ

【みんなみの里】グランドマザーズ

イベント・地域情報/イベント

2020/01/26

◇ グランドマザーズディとは
 昨年、晩秋の11月24日(日)に開催されたイベント『グランドマザーズディ』をご紹介します。
 「グランドマザーズディ」とは、おばあちゃんによるお孫さんたちへの食文化の継承と食育及び地域活性化を目的とした活動で、アイルランドやアメリカでは開催された事例があるようですが、日本での具体的な事例は不明です。
 今回、「嶺岡牧(*1)を知って活用を考える会」主催により、「日本酪農発祥の地(*2)」といわれる嶺岡山系の麓に位置するみんなみの里で、おそらく日本で初めてと思われるグランドマザーズディが開催されました。
 嶺岡牧研究の第一人者である日暮晃一先生のもと、地元の食文化「チッコカタメターノ」の料理づくりと、地元のおばあちゃん達からお話を伺うトークパーティがおこなわれました。
 
 (*1)嶺岡牧(みねおかまき)… 嶺岡山系の中に石積みや土塁などで囲いを造り、江戸幕府が馬や牛を管理していました。江戸幕府直轄牧は千葉県に3つ(嶺岡牧・小金牧・佐倉牧)と、静岡県に1つ(愛鷹牧)です。
 (*2)日本酪農発祥の地 … 八代将軍徳川吉宗が嶺岡牧に3頭の白牛を放ち、乳製品の生産を始めました。明治時代以降、嶺岡周辺から日本の主要乳業メーカーが登場しています。


◇ チッコカタメターノって何
 最近、いろいろなメディアでも注目されている、この地域にしかない食文化「チッコカタメターノ」。じつは「牛乳を固めたもの」を地元の方言で「乳(ち)っこ固めたぁ~の」と言い、これをちょっとイタリア風に表現した、牛乳でつくったお料理の事なのです。
 昭和20年代には嶺岡周辺では約6000戸の家で多かれ少なかれ牛を飼っていました。牛を3~4頭飼えば子供を大学に行かせることができる、と言われるほど酪農が盛んだった時代もありましたが、今では酪農家も10数件となり、しかも昨年の台風被害の影響で酪農廃業も出てきています。
 そのような状況では、日本酪農発祥の地とはいえチッコカタメターノの伝承が進むはずもなく、食べたことがない世代の方が多くなっています。
 嶺岡周辺でも約200~300種類のメニューがあるといわれるチッコカタメターノですが、地域により、さらに各村によっても内容が違うようです。
 地元食文化の伝承団体「プロジェクト鴨川味の方舟」にて、チッコカタメターノの研究と普及にもちからを入れている日暮先生の提案で、地元のおばあちゃんを招いてお料理と当時の様子を教えてもらうこととなったのです。


◇ 伝統的チッコカタメターノ料理づくりワークショップ
 日暮先生によって牧場より手に入れた初乳でチッコカタメターノをつくります。
 牛の初乳とは、分娩後に搾乳した母牛の乳(*3)のことを指し、子牛が免疫力をつけるために必要な成分が含まれています。いわば、母牛からの大切なメッセージのようなもので、とても栄養価の高い乳なのです。

(*3)母牛の乳 … 分娩後5日間の母牛から搾乳したものを初期初乳といい、出荷を禁止されています。 

 鍋に初乳とお酢を入れて火にかけ、ゆっくりと加熱していきます。今回つかった初乳は3リットル、お酢は90cc と、なかなかの大量です。参加者にお手伝いいただき、焦げ付ないように木杓子でひたすら初乳をかき回します。

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 初乳が温まってくると木杓子に少しずつ重みを感じ始め、やがて固まった脂肪分と液体にわかれました。この液体はホエイと呼ばれるとても栄養価の高いものです。
 ふきんを敷いたザルに脂肪分を入れてホエイを切り、木杓子でしっかりと脂肪分を押さえて固めます。冷めるとともにだんだんと脂肪分は固まっていき、約5分後、包丁でも切れる程度のかたさになったカッテージチーズのような「チッコカタメターノ」が出来上がりました。

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 初乳3リットルから出来上がったチッコカタメターノは、小さなステンレスバットほどの塊りになりました。
 
 そして、出来上がったばかりのチッコカタメターノをつかって、地元のおばあちゃんに簡単なお料理を教えてもらいました。
 鍋に調味料(醤油・酒・みりん・砂糖)と、たっぷりのネギを入れて軽く煮ます。そこにチッコカタメターノをお好みの大きさにくずしながら入れて煮合わせて出来上がりです。  

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◇ おばあちゃん達をかこんでトークパーティ
 出来上がったばかりのお料理を食べながら、昔の暮らしについて二人のおばあちゃんからお聞きすることになりました。一人は酪農家、もう一人は一般農家という方々です。
 嶺岡周辺では、酪農家はもちろんですが、一般農家でも牛を1~2頭飼っていました。昔から牛や馬は、現代の車や耕運機のようなもの、家族の一員でもありました。
 終戦後の何もない状況でも牛を手放さず、酪農家は生乳工場などへ牛乳を売り、余った牛乳は自宅で調理して食べていました。また、一般家庭においても酪農家からもらった牛乳を調理してごはんのおかずにしていました。
 里山ではネギや玉ねぎなどの野菜を、海辺においては魚介類を食材にし、それぞれ違う調味料をつかったさまざまなメニューがあるようです。とある家では、チッコカタメターノをバターと生クリームで煮込むというメニューもあるそうですが、すべて牛乳から生まれたものでつくった一品ですね。
 若いときから農協婦人部などの活動の中に食の講習もあり、その際に「チッコカタメターノ」もあったそうです。ご飯のおかずになる料理の研究のほか、いろいろなデザートもつくっていたとのこと。コンテストに参加し、みごと入賞した方もいたそうです。
 
 ちなみに、牛を飼育しているからといって牛乳が好きなわけではないようです。お招きした二人のおばあちゃんの家族にも牛乳嫌いな人がいて、おかずづくりに気を使ったようです。
 私の祖母は、それまでおいしいと言って食べていたホワイトシチューに牛乳が入っていると知ったとたん、まったく食べなくなりました。牛乳の臭いが強く記憶されていたからなのでしょう。

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◇ 最後に
 今回、初乳を手に入れることが出来たので本来の「チッコカタメターノ」づくりと料理を体験することができました。また、二人のおばあちゃんから当時の暮らしや食について直接お聞きすることができ、とても有意義な時間でした。
 チッコカタメターノをはじめ、嶺岡牧に関する調査はまだまだ途中です。全容が見えるのもいつ頃になるのか不明ですが、ここにしか存在しない貴重な遺産ですので、現代を生きる私たちが受け継がなければならないと改めて感じました。
 


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