【京都山科】大豆の話|食べものの話をしよう

【京都山科】大豆の話|食べものの話をしよう

食のお便り/入荷情報

2021/03/08

 私たちが生きるこの世界には、さまざまな食文化があります。先人たちによって今日まで絶えることなく継がれてきたおいしさの中には、食という営みそれ自体のおもしろさや、もしかしたらより良く生きるためのヒントが隠されているのかもしれません。ふだん当たり前だと思って口にしている食材や素材をもういちど見つめてみると、あたらしい発見や学びが必ずあります。
 地下1階の食品売場を歩きながら、私たちと一緒に、食べることについて考えてみませんか。

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 豆腐、醤油、味噌。みなさんはこの3つに共通するものがなにかわかりますか?
 そう、それは大豆です。大豆は約1200年前に中国から伝来したとされています。その後、私たちの食卓には欠かせない豆腐が誕生します。名前の由来には諸説あるそうですが、あの白いかたまりを、腐らせてもいないのに豆が腐ると書いて豆腐と呼ぶとはなんとも不思議です。
 今回は、長年にわたって地大豆でつくる豆腐、「地豆腐」づくりに尽力してきた、京の地豆腐の名店『久在屋』の代表 東田さんをお招きして、久在屋が大切に継いできた地大豆についてお話いただきました。
 
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■“ほんまもんで在り続けること”

 『京の地豆腐 久在屋』は京都市右京区に本店のある、お揚げの看板が印象的なお豆腐屋さん。愛宕山のきれいな水と選りすぐりの大豆を使用して余分なものは一切加えず、素材の味を大切にしています。

 東田さんが豆腐屋になろうと一念発起したのは40年前、脱サラ後の進路に悩んでいたとき、「父親に相談したら、ほんなら豆腐屋やったら?とこう言われたんです。僕の出身地、石川県では畑を売って、豆腐屋をやって、風呂屋を開業することがお決まりの出世街道でしたから、豆腐屋になることも自然と受け入れられました」となつかしそうに、穏やかな声で話してくれました。
 豆腐屋になったはいいけど、久在屋としてどう進むべきか悩んでいたとき、東田さんは知り合いの紹介で、新潟県の在来品種「さとういらず」に出会いました。
 
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 「サンプルを送ってもらい、さとういらずでつくった豆腐を食べたとき、これや、と思いました。こういう豆腐をつくりたいと思える、今までにない味だったんです」

 この出会いから「こんな味の豆ってほかにもまだあるんとちゃう?」と自らの足で全国各地の産地へ足を運び、在来品種を探し求める旅がはじまったのだそう。
 当時は右肩上がりの大量消費時代の只中。希少価値となった国産大豆100%で豆腐をつくる豆腐屋はめずらしかったのだそうです。「久在屋の目指す方向は日本在来品種でつくる豆腐。豆腐は味があってないようなものと思われがちだけど、大豆のおいしさが食べた人に伝わる豆腐をつくりたい」という想いで今日まで歩みを進めてこられました。


■隠れた幻?地大豆って何だ。
 
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 そもそも地大豆ってなんでしょう?
 現在、日本に流通している大豆は、輸入、奨励品種、地大豆という3つに分かれます。国内の豆腐づくりに使用する大豆の自給率は40%程度、そのほとんどが奨励品種といわれるなかで、昔から農家が自家用に栽培し、あまり市場に出回らない大豆が地大豆というわけです。
 日本に存在する在来品種は300種類以上あるとされており、その一つひとつに育った土地独自の個性があるのだそう。

 「しがんでみたらいいよ」と東田さんの言葉に、宮城県産「七里豆」の生の豆をいただきました。“七里先までこの豆の香りが届く”という意味からその名がついたこの豆。薄緑色の豆を噛むと、青臭さと渋みに顔が歪みます。でも、噛み続けると豆の甘みと鼻に抜ける香りがふっとやってきました。「あれ?甘い」と素直に伝えると、「甘いでしょう。僕もそうやって圃場にいくたびにその場で豆を噛んで、青みと渋みのあとでやってくる甘みを確かめるんです。ふわっと甘みがくるのは即交渉ですね」と東田さんの目尻にうれしそうなしわが出来ました。
 良い土と寒暖差の激しい気候で育った豆は味が濃く、滋味深い味わい。地大豆を食べることは日本の風土を味わうことでもあるのかもしれません。なんだかそれってワインのようでもありますね。


■豆を知ることは生産者を知ること
 
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 そういえばさっきから「さとういらず」とか「七里豆」とか、おもしろい名前の豆ばかりですね。

 「『ひとり娘』や『借金なし』、『音更大振袖』なんていう名前の豆が日本の中にあるんですよ」
 
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 「群馬県で『有機栽培さとういらず』をつくっている山口さんは、とっても前向き思考なおかみさんで、本当に元気な大豆をつくってくれるんです。年を重ねるごとに味がのってくるんですよ。きっと有機栽培だからこそ、畑も生き返ってきてるんでしょうね。いかに土を育てるかということも大切。土はお母ちゃんみたいなものですから」

 と微笑む東田さんの笑顔は、それこそお母さんのような温かさ。わたしたち人間もそうありたいと思いますね。

 「ほかにも、能登半島の先端でつくられている『大浜』という品種は、二三味(にざみ)さんという方が、もう誰もつくっていないだろうと言われるなか探し出した大豆。能登半島の先端は、なぜか土が違って、水キレが良い圃場で、おいしい豆が出来るんです」

 東田さんのお話からは、生産者の人柄や関係性が見えるようです。これは東田さんが直接産地を訪れ自分の目で見て、自ら生産者さんたちとコミュニケーションをとってきたという証。


■豆腐の味は大豆の味

 豆腐の材料は、大豆、凝固剤、水の3つだけ。だからこそ、使う大豆や凝固剤の種類で豆腐の味は大きく変わると東田さんは言います。
 豆腐づくりはまず、豆をすりつぶし、釜で炊きます。112度まで炊き上げた豆乳とにがりを合わせ、30分から最長で3時間ほど熟成させます。その後、水槽のなかでカットし、温かいうちにパック詰め、冷却するので香りが逃げないんだとか。
 
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 全国豆腐品評会でも受賞した『はんなりもめん』を食べてみました。
 口に入れてびっくり、口あたりは木綿で、中は絹のようにやわらかいんです。舌でつぶすほどに豆乳の甘い香りがたって、大豆の味が生きているのを感じます。

 「その豆に合った配合や製法、にがりの量も出来るだけ減らし、熟成に時間をしっかりとる。豆腐づくりはいつも、豆の味をいかに感じてもらえるか工夫しています」

 おすすめの食べ方はやっぱり湯豆腐。

 「湯豆腐の食べごろは、お湯がぐらっとして、豆腐が人肌ごろになったら。外は熱いけど、中はほんのり冷たいくらいが一番おいしいときです」

 はふはふしながら口に入れ、つるりとのどを流れていくのを想像すると湯豆腐が食べたくなってきました。

 「おいしいってその食べ物の背景をどう伝えるかだと思います。背景のなかには、土と気候はもちろん、やっぱりどんな人がつくってるんだろうということ。生産者と話していると本当におもしろい話がたくさん聞けるんです」

 昔、国内に5万件ほどあった豆腐屋は時代とともに減少しつつあります。東田さんは若い世代の人たちが大豆や味噌、醤油の味がわからなくなってきているのではないかということに心配があるのだと言います。

 「若い人たちにこそ、大豆をもっと知って欲しくて、京都の農芸高校で大豆を育て、収穫し、豆腐をつくるという授業も行いました。米、大豆は目立つものではないけれど、我々の食を支える食材であって、大豆が変わるだけでこんなに味が違うんだよって、大豆の価値を伝えたかった」
 
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 「地元の在来種で豆腐がつくりたいんだ、と言う若い世代に出会うと、私たちが大切に継いできたことがつながっているなと感じます。そのとき僕が言うのは、安売りをしないこと。生産者の想いを考えた値段で豆を買い、豆腐を販売することにも、私たちが地大豆で豆腐をつくる意味があるんだと思います」

 いま、私たちの生きる社会は、どこよりも安く、どこよりも便利に、ということが人のためとされている傾向にあるのかもしれません。
 でも、はたしてそれはその先に誰かとのつながりや人の温度を感じられるものなのでしょうか。
 本当に微々たるものかもしれないけれど、私たちが買い支えることで誰かとつながって、私たちが食べるものがどこかの誰かの景色を変えているのです。だからこそ、「農家のことを想ってごはんを食べなあかんよ」という東田さんの言葉は胸に響きました。

 お金を出せば、ボタンを押せば食べたいものが手に入るこの時代に、私たちは食べものについてどれだけ意識を傾けてきたでしょう。気づけばお腹が満たされて、ああ、おいしかったと手を合わせるけど、その「おいしい」って気持ちはどこから?何をもっておいしいと言えるの?という疑問の糸口が東田さんとお話する中で見えた気がしました。
 
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 今回ご紹介した『はんなりもめん』や毎月豆腐の日に販売される月替わりの豆腐など、久在屋の豆腐は地下1階で販売中です。

 いつもはせわしない夕食だけど、きょうは豆腐で一杯やりたい気持ち。
 まだ肌寒いし湯豆腐かな、でも膨らむ桜の蕾を見ながら冷奴もいいなあ。今日の大豆はちょっと違うね、これには塩が合うかな、なんて言ってみたりして。昔の人もそんなことを話しながら食べていたのかも。崩れないようにそっと箸でつまんで。


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