【京都山科】現代手芸考|MUJIBOOKS

【京都山科】現代手芸考|MUJIBOOKS

MUJI BOOKS

2020/11/05

 人が本に出会うことが少なくなったのであれば、それは私たちの社会が何かに出会うというきっかけや関係性を失ってしまったからなのかもしれません。PCで単純に検索しても良い本を見つけることは出来ません。なぜなら自分にとって本当に価値のあるものは誰かに紹介されることによって見つかるものだからです。MUJIBOOKSでは生活の中に気づきが生まれるおすすめの本を担当スタッフが丁寧に紹介します。この度、「世界の民芸と暮らしの知恵展」(無印良品グランフロント大阪/2015年)を開催した際にご協力いただいた国立民族学博物館(以下、みんぱく)の上羽陽子准教授が奈良女子大学の山崎明子教授と共編者として『現代手芸考――ものづくりの意味を問い直す』という書籍を出版されました。本日はリモートでインタビューさせていただいた内容を短くまとめてお届けします。
 
【京都山科】現代手芸考|MUJIBOOKS

ご紹介する本:『現代手芸考――ものづくりの意味を問い直す』  
インタビュー:編者 上羽陽子さん(U)、山崎明子さん(Y)
聞き手:無印良品 コミュニティマネージャー 松枝展弘


― どういう経緯で手芸をテーマに研究しようと思われたのですか?

 「私は専門は美術史で、手芸をテーマにして長いのですが、そもそもは研究対象として手芸をテーマにしようとすると美術の枠組みから外されてしまうということが不思議だったんです。その規範を問うてみようというのがきっかけです。手芸と何かの境界線ということも興味のあるテーマで絵画っぽい手芸、工芸っぽい手芸というものも追いかけています。」(Y)

― たしかに境界線と言えば『アウト・オブ・民藝』という本も話題です。カンヌでも『パピチャ未来へのランウェイ』というアルジェリアを舞台にした映画が注目されるなどジェンダーについてもコロナ禍だからこそ考える人も多いのではないかと思います。そうした流れで私個人も気になるテーマだったところに上羽さんが新刊を出されたというのがぴったりのタイミングで驚きました。

 「私はインドでものづくりを研究していますが、生活必需品をつくらなくてよくなった人たちが、ものをつくり続けるのはどうしてだろうといった疑問が最初にあります。この本でも取り上げていますが、調査をしてきたインド西部のラバーリーという女性たちは緻密な刺繍布をつくることで知られています。ところが、社会のなかでそういった刺繍布をつくらなくてよくなったとき、急にアクリル毛糸やプラスティック・ビーズなどで飾り物をつくりはじめたんですね。さらに不思議なことにその新たなものづくりは、私から見るとどうしても手芸っぽくみえる。手仕事から解放されたはずなのに、彼女たちはどうしてつくり続けるのか。それらはどうして私には手芸っぽくみえてしまうのか。そういった疑問が、手芸をテーマに共同研究をはじめようとしたきっかけの一つとなっています。」(U)

― 学問とは学ぶだけでなく問いを立てることでもあり、誰にとっても身近なものであるということを読み進めながら感じました。これは一般の読者への良いテーマですね。

 「この不思議な手芸的なるものを明らかにするためには、どういった視点が大事なのか、何が問題になってくるのか、といったことをさまざまな視点から考えたというのがこの本です。手芸的なるものを研究することは、既存の文化や芸術の枠組みを改めて考えることができると思います。加えて、世界各地でさまざまなかたちで展開するものづくりの意味もあぶり出してみたかったのです。」(U)

― ジェンダーと手芸の関係というのが先にテーマとしてあったのですか?

 「手芸とアートとの対比が先ですね。手芸にまつわるもやもやしたものが、先に共通の興味としてありました。」(Y)
 「違和感ですね。なぜ手芸はネガティブな印象を持たれるのか。幼少から親しんできたものなのに、私自身もどこか手芸を下に見てしまっているのが、何故なのかについて考えてみたかったのです。」(U)
 「手芸作家もどこかでもやもやしています。手芸の世界にほとんど男性がいないことや、男性と対等に学んだり働いたりすれば手芸なんてやっても評価されないこと、そして手芸は作っても儲からないことも。」(Y)
 「実はみんぱくの共同研究として初めて手芸がテーマになったのですが、手芸をテーマにすることに驚かれることもありました。」(U)
 「ですがみんぱくの広報誌で手芸について連載したところ思った以上に多くの反響があり、手芸をテーマにしてくれてありがとうという声があったのです。多領域の研究者が真剣にとりくんだ、はじめての手芸論ですので、興味を持った方に対して、手引きになるように心掛けました。索引をみていただけるとわかりますが、そのトピックは多岐にわたっています。」(U)

― 面白いですね。そういえば気仙沼の話も出てきますね。

 「被災地で手芸がケアなどとして役に立っていることもテーマになりました。チクチクしながら無言で人の横で寄り添って過ごすことができるということをはじめ、被災地での手芸の機能もあぶりだしています。」(U)

― つくるということが癒しだったりしますね。私たちの店舗でも、食事をつくることの意味を考えています。

 「つくらなくても生きていけるのが現代の社会です。マスクだって自分で作らなくていい。だからこそ、つくった時に社会的な意味が発見されるのです。」(Y)

― 読者に伝えたいメッセージが他にありますか?

 「近代以降の便利や快適といった価値を追いかける私たちの生き方は本当に良かったのか。その先は行き止まりしかないことをみんな分かっていたはず。コロナ禍においてそれがはっきりしたのだと思います。何を着て何を食べてどのように暮らすのかを立ち止まって考えるきっかけになったはず。ものをつくる、ものを消費するということについても今こそ考えるときなのではないでしょうか。そういったときに、一番身近なものづくりをとりあげた本書を読んでいただければと思います。大学生にもおすすめです。」(U)
 「今の大学生は自分の手で何かをつくれるということを信頼していないですね。手縫いでも服が縫えるとは思っていない。縫い目は人の手の痕跡ですから、縫い目から何か感じて欲しいですし、つくることで自分への信頼にしてほしいです。」(Y)

― おいしいってテマヒマですね。というコメントをあるイベントで大学生が私に答えてくれたのが記憶に残っています。またワークショップなどが出来るようになってほしいですね。

 「いとへんuniverseという京都のグループが無印良品京都山科のつながる市に出ていますよね。」(Y)

― 週末には地域の良いものを集めたマルシェを開催しているんです。

― 実は無印良品が今年で40周年になるのですが、何かメッセージや期待することを教えていただけますか?

 「企業が消費者と一緒に考えるという姿勢を持ち続けてほしいですね。」(U)

― つくることの価値をどう共有していくかがやはり大事ですよね。無印良品では顧客を消費者ではなく生活者と呼んでいます。

 「しかしながら無印良品はすでに一つのスタイルになってしまっているのかもしれません。ものの背景を考えずに選ぶようになり、どこでだれが何をつくっているかを想像することが難しい時代です。だから無印良品風の安い類似品との間に価格以外の違いを見つけることが出来たらいいですね。」(Y)

― この本をできるだけ多くの学生が読んでくれたらいいのだと思います。これが今日の結論ですね、笑。

 「こういう話を共有する場所をもっと店舗につくってほしいですね。地域コミュニティのプラットフォームのようになっていただきたいです。特に子供たちにものはどこか来て、どこに行くのかといったようなことを教える機会をつくってほしいです。」(U)

― ありがとうございます。今日はたくさん気づきをいただき有意義でした。

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 『現代手芸考』の売場は、2階アトリウム側「民芸ニッポン」のコーナーにございます。
 この機会にぜひ手に取ってみてくださいね。
 
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