【京都山科】お茶の話|食べものの話をしよう

【京都山科】お茶の話|食べものの話をしよう

食のお便り/入荷情報

2021/05/22

 私たちが生きるこの世界には、さまざまな食文化があります。先人たちによって今日まで絶えることなく継がれてきたおいしさの中には、食という営みそれ自体のおもしろさや、もしかしたらより良く生きるためのヒントが隠されているのかもしれません。ふだん当たり前だと思って口にしている食材や素材をもういちど見つめてみると、あたらしい発見や学びが必ずあります。
 地下1階の食品売場を歩きながら、私たちと一緒に、食べることについて考えてみませんか。

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 「いけない、お茶っ葉切らしてた」とお母さんが買い物に出かける様子がなつかしいのはどうしてだろう。茶柱が立つと縁起が良いのはなぜ?葉を浸したお湯がどうしてこんなに心を穏やかにしてくれるのだろう。お茶は日本人の心だとよく言われますが、お茶ってわかったようでわからない不思議があると私は思うんです。
 今回は、京都寺町二条にお店のある日本茶専門店『一保堂茶舗』の法人営業部 千田さまと横田さまをお招きして、お茶についてお話しを伺いました。
 
【京都山科】お茶の話|食べものの話をしよう

 『一保堂茶舗』は、創業約300年の日本茶専門店。京都南部の山あいで栽培されるお茶を中心に、抹茶、玉露、煎茶、番茶を取り扱っています。骨董屋さんや画廊が立ち並ぶ静かな寺町通には、お茶の香ばしい香りが漂い、道行く人は吸い込まれるように、あの暖簾をくぐります。

■お茶とともに歩んできた
 
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 歴史をたどると、お茶は中国から始まり、中国の文献で「喫茶」が出てくるのは紀元前59年頃だと言われています。お茶はツバキ科の茶の木の芽を摘み取ったもので、それを蒸して、火入れをし、揉んで、乾燥させることで、茶葉が完成するというわけです。実は紅茶も烏龍茶も、工程が違うだけで、この茶の木がルーツなのだそうですよ。

 「お茶の専門店と言っても一保堂は茶畑を持っていないんです」と話す千田さん。そこには、信頼のおけるお茶問屋との関係と一保堂の生命線とも言えるブレンド技術があると続けます。

 「それぞれ違った特長を持つ茶葉を問屋から仕入れブレンドし、目指す味に仕立てる。この仕立て方が一保堂のお茶屋としての技術なんです。このブレンドのことを私たちは合組と呼んでいます」

 そのため、同じ畑で採れた茶葉でも、合組することでまた違った味わいになるんだそうです。そして、驚いたのは、それらはすべて人の五感を頼りにしているということ。
 
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 「葉を触って、匂って、飲んで、店主をはじめ専門のスタッフたちで審査します。ただ、お茶は自然の素材。合組ごとに微妙な味わいの差は生じます。だから、常連のお客さまのなかにはその合組の微差を感じ楽しんでくれる方もいらっしゃいます」

 人がつくっているからこそ生まれるやりとり。なんと粋なんでしょうか。そうやって長い間一保堂のお茶と共にくらしてきた人たちのために、その年出来の良い茶葉で、その都度お茶をつくりたいからなんですね。

■葉っぱがお茶になる
 
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 茶葉に触れてみました。
 乾いた青さと干したてのお布団のような安心する香りを肺いっぱいに吸い込みます。茶葉をよく見ると、どれもぴん、と葉に撚りがかかっています。

 「一保堂では、葉の蒸し時間が短い普通蒸しで仕上げた茶葉を好んでいるので、ぴんと針のような茶葉が特長なんです」

 千田さんの凛と響く声に、一心に空に向かって葉を伸ばす新芽が頭に浮かびました。
 
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 現在、全国に流通している煎茶のほとんどは葉を長く蒸す深蒸し製法なんだとか。私たちの見慣れた細かく粉状の茶葉は深蒸しだったんですね。

 「一保堂では、寒暖差の激しい山間部で育つ、葉に甘みがぐっと乗ったお茶を好んで扱っています。同じ煎茶でも、産地による製茶法の違いや水の硬度でも味は変わるし、それに合わせるお菓子も変わってくる……。だからこそ、地元でつくられたお茶がからだに馴染む、とおっしゃる方が多いのかもしれません」

 まるでお出汁文化ですね。

■ずっと続いていく味

 コップに注がれるお茶を見て、自然と背筋が伸びました。お茶を飲むとき、どうして正座をしたくなるのでしょう。
 せっかくなので、お茶屋なりの飲み方を教えてもらいました。
 
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 まずはお茶の色(水色)を見ます。そして、コップを手の平で覆い軽く振り、スライドさせた隙間から香りを確かめます。そうすると、コップに充満した香りが鼻に届くのだそう。みんな真剣な表情、調香師にでもなった気分です。
 
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煎茶<芳泉>

 煎茶は甘みと太陽をたくさん浴びることで生まれる渋みを持ったお茶。芳泉はそのバランスが良い煎茶なんだそう。
 透明で黄色がかったお茶を口に含むと、まさしく若葉を食べているようなさわやかな香りがたち、甘みのあとに渋みがやってきます。

 「煎茶は苦いと思われがちですが、ちゃんと甘みもあるお茶なんです。和菓子などとの相性が良いですよ」

玉露<滴露>

 茶の木に屋根をかけ直射日光を遮ることで甘みと旨みが葉に蓄えられる玉露。京都が玉露の産地であることは有名ですよね。
 緑色のお茶に鼻を近づけると、海藻のような香りがしてこれはお茶かと疑うほど。とろっとしていて、まるで昆布出汁のようでありながら澄み切った味わいです。味が濃厚で、口に残る渋みが心地いいですね。チーズなどしょっぱいおやつといっしょに食べたいな。

番茶<柳>

 「玉露がとっておきのお茶だとしたら、番茶は日常のお茶」と千田さんは話します。

 「番茶は新芽を摘み終わった大きく伸びた葉を製茶して飲みます。関東ではまさにこれを番茶と呼ぶそうですが、京都でいえばほうじ茶を番茶と呼んでいます。番茶は地域によって違いがあるものなんです」
 
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 黄色味が強く、太陽に照らされた干し草のような香りに、みんなほっと落ち着いた表情。甘みが無く渋みがたつ味は、ごはんに合い、食後のお茶やお茶漬けにぴったり。

 「番茶だから何でもいいではなくて、日日に飲むお茶だからこそ、おいしいものを。私は番茶の良さをたくさんの人に知ってほしいんです。これがおいしいと、日頃のお茶の生活が楽しくなると思うので」

 よくお母さんも食後にはお茶を淹れてくれました。あの味を思い出すとなつかしく温かい気持ちになります。

 「値段が高いからおいしいお茶とは限りません。どんなときに飲みたいか想像してみてください。自分の好みやくらしに合ったお茶を見つけていただきたいです」

 お茶の渋みがからだに沁みていくと心が洗われるよう。そして、不思議なことにお茶を飲んだあと舌の奥の方がずっと甘いんだよなあ。

■お茶は淹れるもの
 
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 お茶を淹れるところを見せてくれました。
 手の中に納まるほどの急須に、お湯を注いだ瞬間から、ゆっくりとひらいていく茶葉は、起きたてにする大きな伸びのよう。きっちり時間をはかって、手早く注ぎます。

 「お茶は最後の一滴まで淹れきることが大切です。この一滴に旨味がのっていますから」

 穏やかな口調とは裏腹に、慣れた手つきでちゃっと急須を降る、その一連の所作の美しさに見とれてしまいました。

 「急須でお茶を淹れるおもしろさは、淹れる人やたった1秒の違いで同じようにはならないってことです」

 お茶や庭園など、日本の文化には俗世から離れた穏やかな時間の流れを感じます。そこには、研ぎ澄まされた信念や、自然に身を任せた大らかな心があるからなのかもしれません。

 「お茶は撚りが開くときに味が出ます。私は、一煎目をお客さまへ、二煎目は作業中、三煎目はお昼ご飯。その時々で変わるお茶の味を楽しみながら飲んだりしています」

 お茶ってそこに住まう人のくらしに紐づいているんですね。今日良い日であるようにとお茶を淹れる。お茶を飲むと心が整います。
 
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 そして、今年も地下1階に一保堂の新茶が入荷しました。「新茶というのは一年に一度しか取れないから、お茶屋にとってはお正月みたいなもの」と千田さんたちが目を輝かせて語った今年のお茶は一体どんなものなのか気になります。ぜひ、今しか飲めない味をお試しください。
 
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 お茶椀、お茶請け、お茶目、無茶苦茶、お茶の間……。
 「茶」のつく言葉を並べてみると、お茶があったから碗に注いで飲み、お茶が引き立つお菓子を食べ、お茶がある場に家族が集まり、そうやって私たちのくらしは出来上がっていったのかもしれないと思えてきました。
 これからゆっくり考えていくとして、まあ、ひとまずお茶でも。



#世界は茶でつながっている
#落語が聴きたい
#急須で飲むから
#夏は水出し
#自然
#母から子へ
#1杯のお茶がこわい



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