今日は冬至。冬至とは二十四節気のひとつで1年で夜が最も長く昼が短い日とされている日のことです。冬至といって思い浮かぶのはやっぱり冷えた体をあたたかさと香りで癒してくれる柚子湯ではないでしょうか。柚子ってなんだか不思議ですよね。みかんのように食べるわけでもなければ料理の主役になるわけでもないのに、柚子があるだけでほっと安心した気持ちになります。
そんな冬至にちなんで、京都右京区にある水尾という地域で活動する柚子の生産者さんを取材したレポートをお届けします。
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冬の気配を感じる冷たい風と青空が広がる11月。私たちは陽の光が木々の隙間からもれる細く長い山道を保津川沿いに登るとたどり着く、水尾という集落を訪れました。ここは限界集落に認定されているほどの小さな集落で、京都で唯一の柚子の産地でもあり、日夜の寒暖差で皮を含めた濃厚な香りと上品な甘みが特徴の柚子が育ちます。
歓迎してくれたのは柚子色の作業着が良く似合う水尾ご出身の村上さん。京都でお勤めの後、柚子の生産に尽力され、現在は息子さんと時にはお知り合いの方の力を借りながら柚子の生産から出荷までを担っています。「ここでは柚子を育てることがくらしの一部でしたから、専業でなくても柚子の手入れや収穫は当たり前でした」と言うその言葉通り、村上さんのお宅の庭にも、道路沿いにも黄色の点々が帯びのように連なりその枝を伸ばしていました。
段々になった柚子畑にはちょうど完熟を迎えた柚子がたわわに実り、生い茂る緑の中で映える黄色は「ここにいるよ」と教えてくれているみたい。
「柚子の樹は5cmほどの固いトゲで覆われているんです。“体は傷つけても柚子は傷つけるな”なんてよく言われたものです。傷がついたり、人の体温が伝わるとそこから傷んでしまうから、一つずつ丁寧に収穫する必要があるんですよ」
溶接用の分厚い手袋とハサミを使い、柚子をやさしく包むように持ち、無作為に伸びるトゲを避けて手のひらに乗せてくれました。なめらかな肌と明るい黄色がきれい。「傷がないから香りがないでしょう」と爪で皮を傷つけると、目の覚めるさわやかな香りが弾けます。鼻から大きく息を吸うとからだの内側から凝り固まったいろいろがほどけてゆく。この香りに心が落ち着くのは、昔から柚子が日本人のくらしとともにあったことの証拠なのかもしれません。
柚子の生産は収穫だけじゃなく、剪定や肥料など長年重ねてきた経験が生かされています。親しみを感じる優しい表情の裏には人の手と感覚を持ってしかなし得ない努力が詰まっているんですね。柚子は実をつけるまでに10年や20年の歳月がかかり、その後100年以上も実をつけるのだと村上さんが教えてくれました。だからここにあるのは村上さんの先代や先々代が大切に育て、受け継いできた家族の歴史のようなものでもあるのでしょうか。
「柚子の繊細さを知っている人は多くないと思います。気持ちを込めて育てたものを少しでもたくさんの人に手に取ってもらいたいから、やっぱり一番は傷のないきれいな柚子を目指しています。それは丁寧な手入れが施され、質の良い柚子がたくさん実るという証でもありますから」
村上さんはいま、これからのために放棄された杉山を買い取り、土地を開拓して新たな柚子の樹を育てることにも力を注いでいます。まだ背丈ほどしかない小さな柚子の樹だけれど立派に実をつけ、陽を浴びる柚子畑を仰ぎ見たとき、村上さんの柚子に対しての思いやりを感じました。この柚子の樹が水尾の自然を吸い込み、これから何十年もかけて、私たち人間さえもぐんぐん追い抜いて育っていくのかと思うと、村上さんの手から息子さんの手へ、そしてずっと先まで水尾の柚子が続いていきますようにと願わずにはいられません。「生涯現役。からだの続くかぎり頑張ろうと思います」と朗らかに笑う村上さんの笑顔はまるで太陽のようでした。
香りは目には見えません。でもたしかに鼻からからだ中を巡って、心を穏やかにしてくれますよね。時間に追われるばかりの私たちは目に見える技術や効果に頼りすぎているのかもしれません。お風呂に浮かべたり料理に添えてあるだけで十分なんだ、と酸っぱいけどほんのり甘くて最後に苦い黄色いまん丸が教えてくれます。
無印良品 京都山科では今回取材した村上さんの柚子を使用したぽん酢を、京都・山科に工場を構えるソース屋『オジカソース工業』さんにご協力いただき開発いたしました。発売は12月26日(日)です。またおたよりでもご紹介いたしますので、ぜひお楽しみに。
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