【京都山科】飴匠さわはら|現場を訪ねて

さわはら

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2020/03/29

 私たちは普段食べているものが、どうやってつくられているのか、そのおいしさがどこからやってくるのかを忘れてしまいがちです。無印良品 京都山科では、できるだけつくっている人の顔が見えるものを揃えて、交流をしながら販売していきたいと考えています。今回は1階銘菓の売場で展開している、地元の山科でつくられているお菓子を取材してきました。その様子をレポートにして皆さんにお届けします。

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 3月の良く晴れた日。店舗から車で10分ほど、細長い山道を抜けた山科の住宅街の中の飴屋『飴匠さわはら』を訪ねました。迷いそうになったのですが、かわいらしい招き猫が手招きしてくれました。
 
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 どこからか漂う菜の花の香り、吹く風に「京の飴屋さん」と書かれた暖簾がふわりと揺れ、そのやわらかさに春を感じました。庭には金柑が陽を浴びて輝き、まるで飴玉のように甘そうです。
 
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 出迎えてくれたのは目元にお人柄がやさしくにじみ出る、『飴匠さわはら』2代目の澤原一さんと奥さま。同じ空間にいるだけで、お二人の仲の良さがひしひしと伝わってきました。

 「父は手で飴をつくる職人でね、まるで力が入ってないかのようで、見てて不思議なくらいでした」
 
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 軒先でお客さまと顔を合わせて、手づくりの飴を販売しながら取引先に出荷をする日々。家族三人で先代がはじめた飴屋も、もうすぐ60年とのこと。幼い頃から澤原さんもよく手伝いをしたのだそうです。
 店のすぐ横にある現在の工場ができるまでにはお父様である先代から伝わるエピソードがありました。

 「この土地を売ってほしいと、地主さんに申し出たところ『あんたには恩があるんや』と快く売ってくれたそうなんです。よくよく聞くと、昔ガス欠で困っていた地主さんを父が助けたらしく、それを覚えていたそうです」

 昔話のような素敵な逸話に驚きました。人を思う気持ちは何より大切ですね。そんな先代がよく話していたのが、「人に食べてもらうなら、おいしい飴じゃないとあかん」という言葉だったと言います。『飴匠さわはら』は昔ながらの地釜直火炊き製法で、素材の味が活きる生地飴をつくり続けてきました。飴は地釜で炊き上げ、練り込み、伸ばし、切る、という工程で出来ており、切る工程以外は全て飴職人の手づくりです。
 
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 先代の背中を見て、澤原さんは長い年月をかけて飴づくりの技を身につけました。人の手から手に受け継がれていく伝統。頭で考えるだけでなく、人間はたくさんのものを手で考えてきたのだということを思いました。

 「飴の素材は厳選した砂糖と水飴だけ。砂糖にも粘りや熱に対する反応の違いがあって、飴によって使い分けるんですよ。そうすることで、素材そのものの味を活かした飴が出来上がるんです」

 砂糖ひとつでも飴の仕上がりが変わってくるということですね。「粘り」という性質で砂糖を比べているとは驚きです。
 
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 格子戸を引くと、店内には飴がずらり。鉢の花やひとつひとつの説明書きから、お客さまをもてなす心が表れていました。
 実は澤原さんは自分で楽器をつくってしまうほどの音楽好き。なんと売場の棚の真ん中にあるベースギターは、昔使っていらっしゃったものであるそうで、大切にしてくれる人にお譲りするためにここで飴といっしょに販売しているそうです。飴のパッケージは奥さまの字をデザインしたもの。道案内してくれた招き猫のイラストは、娘さんが描かれています。ご家族みんな、ものづくりが好きなことが伝わってきます。
 
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 取材中も、買い物にきた常連さんたちの楽しそうな声が聞こえてきました。色とりどりの飴玉やかわいらしい包み紙を見ていると、自然と笑顔になります。子供のころにふるさとで、学校帰りに通った駄菓子屋さんを思い出します。

 どの飴も全部大事な子どもたちやと思っています、と澤原さん。中でも酒かす飴は、澤原さんと長年一緒に飴をつくってきた工場長が、試行錯誤を繰り返した思い出の飴だと教えてくれました。
 
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 口の中にそっと入れると酒かすのまろやかさと香りを感じます。まあるい甘みはあとから舌に広がって、からだにゆっくり染みていきます。考えてみれば、私たちは本当の飴の味を知らなかったのかもしれません。飴そのものの味に気づいたとき、言いようのない満たされた気持ちになりました。
 
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 「おいしいってしあわせな気持ちだと思います。毎朝、飴たちに、おいしく食べてもらうんやで、みんなにはお客さんをしあわせにする力があるんやでって声をかけているんです。そうやってつくって、お嫁に行った飴をおいしいと言ってもらえる瞬間が一番うれしいです」

 ある実演販売の日に突然、澤原さんは「子どもってこんなにかわいかったんや」と、その愛おしさに気づいたと言います。するとまもなくして、愛してやまない娘さんを奥さまのお腹に授かったのだそう。
 
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 「そやから、飴ってしあわせを運ぶもんなんやなあって感じているんです」

 垣間見えたのは、やさしいお父さんの顔でした。

 飴屋は飴の味をつくっている。当たり前なことですが、今日までその意味が見えていませんでした。そして、飴は食べた人にしあわせを運んでくれます。穏やかな笑顔を浮かべたお二人を見て気づきました。飴を食べたときに感じたあたたかさは、澤原さんご家族が引き継いできた愛情だったんですね。
 
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 ものの背景にはいつも、つくり手がいて、それを受け取る誰かがいます。引き継いでいくとは、人と人とのつながりがあるからこそ成り立つ人間の営みだということを、心で感じることができました。この飴は一人で食べるにはもったいないくらいの愛が詰まっています。私も誰かにこの飴の持つしあわせを届けたくなりました。

 無印良品 京都山科ではこれからも、近くでものづくりをしている方たちの現場を訪ね、行ってみないとわからない、お話しないと聞けない、そんなことをおたよりで配信していきます。
 1階のギフト売り場では、今回訪れた『飴匠さわはら』の飴を多数取り揃えております。皆さんもぜひこの機会に味わってみてくださいね。


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